デジタル時代の共同体社会

デジタル時代の共同体社会

地域循環型社会

 今週は、前回のブログで述べたグリーンニューディールを、共同体(コモンズ)の視点から考えてみたいと思います。共同体のあり方が、「限りなき成長という従来の資本主義の考え方から脱し“健康・幸福・環境”という人間と自然にフォーカスする」というグリーンニューディールを決定づけると考えたからです。
 もちろん一言で“共同体”といっても様々な性格があり、その示す範囲(スケール)も大きく異なります。性格では、地縁・血縁などをベースにしたゲマインシャフト型の共同体もあれば、利害を共有する狙いで結ばれたゲゼルシャフト型共同体もあります。規模も、趣味や共通の趣向で結びついたサークルに近いものから、欧州連合(EU)や東南アジア諸国連合(ASEAN)のような国家間連合に至るまで様々な共同体が存在します。

 では、最適かつ持続可能な人間と生活環境を実現することを目的とするグリーンニューディールにおける共同体は、どれほどの性格と規模感として考えたら良いのでしょうか?

 曖昧な定義を避けるために、ここでは一つの仮説を設けたいと思います。その仮説とは『生産・分配・支出という経済循環が成り立つ経済圏』としました。もちろん、この仮説はグリーンニューディールのすべてが満たせる普遍的なものとは考えておらず、共同体で暮らす人々の生活欲求を満たす尺度の一つとして想定したにすぎませんが、実は、この経済循環による経済圏の考え方は、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部による『地域経済分析システム(RESAS)』から着想を得たものです。

 RESASは、県や基礎自治体における地域内経済循環の状況を数値化し、ボトルネックや課題などを分析・検証するためにつくられた仕組みです。すなわち、地域内企業の経済活動を通じて“生産”された付加価値が、労働者や企業の所得として“分配”され、さらに消費や投資として“支出”され、再び地域内企業に還流するといった過程で、どの程度地域経済で循環しているかを数値で表現し、課題の所在などを分析するための参考データです。地域経済循環率が100%であれば経済的に拮抗した地域であり、割合が高いほど地域の『稼ぐ力』が高く、低いほど地域外に資金が流出していることを示しています。

 このような地域内で経済を循環させることで経済の底上げを図ろうとする考え方は、発展が運命づけられた今日の資本主義の抱える矛盾への有効な処方箋の一つではないかと思うのです。RESASデータは基礎自治体まで網羅されており、自治体での中長期計画立案時などで活用されているようですが、“経済循環が成り立つ経済圏”という観点に立てば、必ずしも行政区に限定する必要はないと思います。行政区をまたがっていても、自然環境や産業・文化などで結びつくことは十分可能です。RESASシステムには独自のパラメータを入力して計算することも可能ですので、様々な数値をもとに地域循環型経済圏を創造していく一助にもなるのではないでしょうか。

スマートシティ構想

 地域循環型社会を目指す上で、スマートシティ構想も同一線上にあると考えられます。スマートシティとは、改めて指摘するまでもなく『都市の抱える諸課題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区(国土交通省「スマートシティの実現に向けて」より)』で、その根本には国連で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals)があります。

 国土交通省によるこの報告書には、スマートシティが実現した後の生活者視点のイメージという意味深い一節があります。

スマートシティが実現した社会では、ICT 技術の進展により、生活者は物理的な距離を越えて、リアルタイムに情報の収集と共有が出来るようになる。これにより、生活者は、物理的な距離や時間的な制約から解き放たれることになる。このことは、例えば生活者の時間の使い方に影響を与え、一人一人にとって有限な時間を、最適かつより自由に使うことを可能とする。従来、安全・安心、かつ最低限な暮らしを維持するために割かれていた、通勤や買物、通院等の基本的な欲求を満たすための時間を、自己実現のための社会貢献や再教育、人的交流、体験等、より高次な欲求を満たすための創造的な活動や、余暇の活動に費やせるようになり、個人の生活の質(QOL:Quality of Life)を高められると考えられる。

 とりわけ、ICTの進展により“生活者は、物理的な距離や時間的な制約から解き放たれる”ことにより、地域社会における共同体にも大きな変化をもたらすと考えています。

 例えば、産業や企業の誘致することで地域経済を底上げしようという施策が、全国各地で競うように行われてきました。大規模な工業団地や産業の集積基地を造成するために、膨大なコストをかけて山を削り、海を埋め立てました。また、近郊にはベッドタウンを整備するために高層マンション群を林立させてきました。いわば“Workers to Work(仕事のある地域に人が移り住む)”が地域発展の唯一のカギと考えられてきたのです。大都市に人口が集中したのも、地方都市との格差が拡大したのも、自然環境が次々と破壊され都市に変容したのも、まさにこうした施策の結果だと思います。

 ICTが進展した結果、こうした従来の常識は覆されつつあり、“Work to Workers(人間がどこからでも仕事ができる)”社会に変わりつつあるのです。言い換えれば、仕事(職場)中心の社会から、人間(労働)中心の社会に大きく変貌しつつあるのです。

 さらに、人口の急激な減少がそうした傾向に追い打ちをかけています。国立社会保障人口問題研究所の報告書では、今後わが国の人口は、2060年には敗戦直後、2100年には明治後期の水準になり、江戸時代の水準にまで落ち込むのも時間の問題と推測されています。

 東京を始めとする首都圏では、今なお次々と高層ビルの建設が行われていますが、近い将来これらのビル群の多くは入居者が激減し、ひいてはスラム化していくと思われます。今回のコロナ禍でリモートワーク人口が増え、オフィス需要にも陰りが見え始めていますが、今後こうした傾向は確実に加速すると考えられます。
 オフィス需要が減少しても成長を止めることができない今日の資本主義は、まさに『破壊と創造が繰り返される』状態にあり、いずれはシュンペーターが予言したように存続の危機を迎えると思います。

 ICTがスマートシティを推進するインフラとして生活に深く根付くことで、大量生産・大量消費といった重厚長大型産業からの脱皮が進み、個人のQQL向上を目的とする“デジタル社会”が実現していくと確信しております。なぜなら、こうした社会が現実のものにならない限り、今の人間社会、ひいては地球環境を持続されることはできないと考えるからです。

デジタル時代における持続可能な社会を目指して

最後に、私自身が今後実現したいと考える社会像について述べさせて頂きます。

(1)全世代が充実した生活を送ることができる仕組みの拡充

 人口減少と同時に高齢化の進行が急速に加速化しています。5月15日付ブログ『将来の組織・労働について考える』でも示しましたが、生産年齢人口の割合は全人口の50%に近づきつつあります。

 とりわけ高齢者人口の割合は年々増加傾向にあり、介護などに伴う負担も大きな社会問題になりつつあります。健康な社会生活を長続きできるようなQOL向上のための施策が重要になります。厚生労働省『令和元年版高齢社会白書』によると、介護が必要になった主な要因のうち「高齢による衰弱」は男女平均で13.8%に過ぎません。これは、高齢者の日常の生活習慣を良好に保つことで、要介護に陥る時期を遅らせることが可能であると理解して良いと思います。

 高齢者のQOLを高めるには、社会参画意識を高め自らの生きがいが感じられる老後生活を長く維持することが最も有効な処方箋になると考えます。そのためにも、世代を超え老若男女が、無理のない範囲でできることを「あたがいさま」として互に支え合える暮らしは、高齢者が生きがいを実感できる機会としてもとても大切だと考えます。とりわけ、長年蓄積した経験や技能を持った高齢者が、自分の技術や経験を活用することで相手を助けられることはとても多いと思います。

 お困りごととそれを解決できる人をつなぐための情報交流基盤を整備し、町ぐるみで<おたがいさま運動>を盛り上げていくことは大変有意義な試みだと思います。

(2)多様な働き方に対する地域としての受け皿の確保

 ここ数年、新たな働きかたへの模索が急速に行われつつあります。とりわけ新型コロナウイルス感染拡大による自粛生活の影響で、テレワークを導入する企業も増えています。
 2021年1月22日付の東京都報道発表資料によると、従業員規模別テレワーク導入率は以下のような傾向にあります。

 テレワークなどのリモートワーク導入による効果は、新型コロナウイルス感染が拡大する前から指摘されており、今後も新しい就労環境として定着することが見込まれます。
 一方で、対面によるコミュニケーション機会が希薄になったことや、家庭内での仕事との両立に困難さを感じる人も少なくはありません。こうした問題を解消するため、地方の広い空間にリモートワーク用のサテライトオフィスを構える企業も増えています。

 こうした動きは、都市と地方の関係をより近づける動因にもなるのではないかと思います。すなわち、“Work to Workers(人間がどこからでも仕事ができる)”社会への動きが加速すると思うのです。その受け皿となる地域では、デジタル環境の整備を加速し、都市部とさほど遜色を感じさせない就労環境の整備は欠かせない課題です。

(3)地域循環型経済を可能とする地域共同体基盤の構築

 それぞれの地域には、付加価値の源泉となる生産財が存在します。本稿の冒頭で紹介したRESAS地域経済分析システムによれば、“①生産(付加価値額)”にあたる部分です。
 さらに、生産(付加価値額)が“②分配(所得)”に結び付けば、共同体の経済の底上げにもつながり、地産地消型消費が実現すれば“③支出”も増やすことにつながり、地域経済自給率も限りなく100%に近づけると思うのです。

 共同体が地域循環型経済の受け皿となるうえで、ICTを中心としたデジタル基盤の構築は大きな役割が果たせると考えます。最後に、これから実現していこうと考えようとしている構想の一端を例として紹介します。

 デジタル社会は、様々な格差や不公平などといった様々な矛盾を抱えた現代の資本主義社会を大きく変革できる可能性を秘めています。


 これまで毎週『デジタル社会の展望』と題したブログで私の考えについて述べて参りましたが、今回を持ちまして連載はいったん休止させていただくことにいたします。今後は、不定期で折に触れ進捗などについて日記風に続けさせて頂くことといたします。

 毎週、長文にお付き合い頂きましたことに深く感謝申し上げます。


社会・政治問題ランキング
error

Enjoy this blog? Please spread the word :)