公正な社会とは?

公正な社会とは?

“社会の公正性”が持つ意味

 前回のブログ『幸福な社会を考える』で引用した、国連による『World Happiness Report 2020』では、国家の幸福度を示す6つの指標の一つに『社会の公正性(Perceptions of corruption)』が挙げられていました。繰り返しになりますが、“社会の公正性”は政府の透明性を表す指標で、政府や企業における汚職実態が指標になっています。この指標でも、わが国は上位10カ国はもちろんのこと、31位にランキングされているシンガポールなどの国に大きく水をあけられた結果となっています。

 つまり、公的機関が保有するあらゆる情報の公開を原則とする民主主義の先進国のなかではかなり劣ったランクに位置づけられており、少なくとも政治・ガバナンスの面では他のG7諸国と対等に肩を並べられる存在ではないという評価です。GDP世界第三位という経済力にモノを言わせて先進国の仲間入りは果たせたものの、政治や社会への信用力は極めて低いという指摘がこのレポートから透けて見えます。頼みの経済力も人口の急激な減少など負の要因によりV字回復への期待が薄まっており、今の状況のままでは後進国と目されるのも時間の問題だといった厳しい見方まであるようです。

 国家が公正なガバナンスの下で運営されていることは国の信用力の指標にもなり、外交上の地位や海外企業などとの協業や投資が得られるだけでなく、国民のモラルやモチベーションを維持する上でも重要な要因にもなります。その顕著な例が、今日のコロナによるパンデミックにおける国民の受け止め方ではないでしょうか。

 政府による再三の呼びかけにもかかわらず人流の減少が見込めないまま第5波に突入し、7月29日にはついに一万人を超えました。感染力が高いデルタ株の蔓延に加え、夏休みやオリンピックなどの諸条件が重なったことも災いしたと考えられますが、最大の要因は総理の発信力の欠如にあると考えています。それは、感染症対策分科会の尾身茂会長の「危機感が(国民と)共有されていないこと」という発言に凝縮されていると思います。先日の7月30日に発出された6都府県を対象にした緊急事態宣言での菅総理の会見を見て、あまりの発信力の弱さに暗澹たる気分を味わった方も多いのではないでしょうか。これは私個人の感想ですが、危機感が共有されない要因は、発信力などというスキル上の問題だけではなく、危機的な現実と誠実に向き合おうとする為政者の人間性(≒人間力)そのものの欠陥が招いているのではとさえ感じてしまいます。

腐敗認識指数で見るわが国の地位

 国際NGO「TI(=Transparency International)」は、アジア開発銀行、世界銀行、世界経済フォーラムなど世界の主要機関が行ったアンケート結果に基づいて、各国の汚職度を0〜100の数値を指数化しています。数値が高いほど汚職が少なく政治の透明性が高く評価されています。180カ国を対象とした2020年の腐敗認識指数(Corruption Perceptions Index)が公表されていますので、このレポートから考えてみたいと思います。

 180カ国中19位というランキングは、腐敗度の観点ではかなり優秀な国であるという印象を持ちます。確かに、わが国では露骨な賄賂の要求などは行われておらず、公務員への贈収賄にはかなり重い罰も課せられています。そうした点では、かなり清廉な国家であると考えられますが、それによってわが国の政治が透明性を確保できているか?と問われれば首を傾げざるを得ないのではないでしょうか。

 政治の透明性という観点で多くの人が思い当たるのは、“森友学園問題”や“桜を見る会”などで国会をにぎわせた一連の政治スキャンダルだと思います。特に森友学園問題では、事件が表面化するにつれて公文書の改ざんなど前代未聞の不祥事までが露見し、実務担当官が自殺に追い込まれるといった悲劇にまでつながりました。桜を見る会も公設第1秘書が政治資金規正法違反で略式起訴されたものの、当人である安倍前首相が不起訴になったことで、検察審査会などから異論が提起されるなど不透明な状態が続いています。

 こうした一連の政治をめぐるスキャンダルで、『忖度』という言葉が注目を浴びました。忖度とは、本来は「相手の気持ちを慮ること」と日本固有の一種の美徳として使われた言葉ですが、一連のスキャンダルで「権力におもねる」などという意味に変化し、言葉の持つ印象が真逆にとらえられてしまいました。忖度を“権力におもねる行為”ととらえれば、これは“見えざる腐敗” に他ならず、わが国特有の贈収賄行為ではないのか?とも思うのです。

 見えざる腐敗は、忖度だけに留まらないようです。その最たる例が企業からの『政治献金』です。日本経団連が2003年に日米英独仏5カ国の政治寄付関連制度について比較調査していますが、それを見ればわが国の政治献金への甘さが一目瞭然です。企業が政治家に献金する動機は、いかに美麗な建前を述べても所詮は許認可を有利に進めることや、自社や業界にとって有利な法改正への陳情、発注などへの見返り・・・などといった期待感があります。行政からの天下りも、終戦間際の「優秀な人材を受け入れる」といった考え方は今日では全く薄れ、むしろ行政との取引を有利に進めるうえでの手段であるとされています。

 さて、こうした合法的な腐敗が堂々と行われているわが国では、刑事罰に相当するような不正案件は少ないとしても、世界19位にランクされる腐敗の少ない国であると胸を張れるのだろうかと疑問を感じてしまいます。

 腐敗認識指数上位10カ国は欧州国家で占められています。なかでも、デンマーク・フィンランド・スウェーデン・ノルウェーといった北欧諸国は揃って極めて高い評価を得ています。2008年に私が初めて北欧諸国を訪問したおりに、デンマーク財務省で上級官僚の指導力に関する討議を9つの原則のもとでレビューを行っているといった説明を受けました。つまり、国・県・コミューン(基礎自治体)の上級官僚が毎年以下の9原則に基づく進捗を報告させ、相互チェックを行っているということでした。

 すなわち、デンマークのすべての上級官僚には、この9原則を順守することはもちろん、これらを自らの組織内で具現化するための明確なガバナンスが求められているということでした。 また、情報公開法で世界最古の歴史を持つ1スウェーデンでは、外交や安全保障などの国家機密を除く歳出・歳入情報はもちろん、政治家を含め政府に属するすべての要員が取り交わした手紙・電子メールの類いまでも公開の対象として法律で定められています。このような国民監視の下でのガバナンス体制では、汚職などの不正が付け入る隙は極めて小さいと言えるのではないでしょうか。

世界報道自由度ランキングで見るわが国の地位

 世界報道自由度ランキング(英: Press Freedom Index; 報道自由指数)は、国境なき記者団 (RSF) が、ジャーナリストや報道機関の活動の自由度について、ジャーナリストへのアンケートと報道妨害など暴力行為の統計を組み合わせポイントに置き換えたもので、2002年から毎年発表しています。アンケートでは、「意見の多元性」「メディアの独立性」「メディア環境と自己検閲」「報道に関する法的枠組み」「透明性」「報道インフラの質」といった項目について87の質問項目から計測しています。

 2021年世界報道自由度ランキングが180カ国を対象に2021年4月に公表されました。
 ランクは、0(最高スコア)~100(最低スコア)の少ないポイント順にランキングされており、以下のように全体評価がなされています。

  • 0~15ポイント  :良好な状況
  • 15.01~25ポイント:満足のいく状況
  • 25.01~35ポイント:問題のある状況
  • 35.01~55ポイント:深刻な状況
  • 55.01~100ポイント:極めて深刻な状況

 わが国のポイントは28.88ポイントで180カ国中の67位、上記評価基準のうち「問題のある状況」とされています。
 ちなみに、「良好な状況」にランキングされた上位12カ国は次の各国です。

 また、G7諸国のランキングは、以下のとおりわが国以外は「満足のいく状況」にランクされており、唯一わが国だけが「問題のある状況」との厳しい評価を受けています。

 レポートには各国に対する報道の観点からのコメントもまとめられており、わが国に対しては以下のかなり辛辣なコメントが掲載されています。

安倍晋三氏の元右腕であり、2020年9月から首相に就任した菅義偉氏は、報道の自由の環境を改善するためのことは何も行わなかった。世界第3位の経済大国である日本は、メディアの自由と多元主義の原則を尊重しているが、ジャーナリストは伝統とビジネス上の利益の影響のために、民主主義の番犬としての役割を果たすのは難しいと感じている。 ジャーナリストは、2012年の総選挙でナショナリストが権力を握って以来、彼らに対する不信感の風潮に不満を持っている。記者クラブ制度は、フリーランサーや外国人記者を差別し続けている。ソーシャルネットワークは政府に批判的であるが、福島第一原発事故や沖縄での米軍のプレゼンスなどの「反愛国的」な主題を扱っているジャーナリストに嫌がらせをしている。政府は、内部告発者、ジャーナリスト、ブロガーが違法に入手した情報の公開で有罪判決を受けた場合最大10年の懲役に直面する「特定秘密保護法」についての議論を拒否し続けている。2
(訳責、傍線:筆者)

 特定秘密保護法(特定秘密の保護に関する法律)は、2013年12月6日に成立し、2014年12月10日に施行された法律ですが、成立の前後には国民を巻き込んだ議論になったものの、その後はわが国のマスコミも含め次第に忘れ去られたかのように鎮静化しています。わが国でほとんど議論の俎上に上がらなくなったこの法律について、世界のジャーナリストがこのように取り上げる現実には、日本人として複雑な思いを禁じえません。「ジャーナリストは伝統とビジネス上の利益の影響のために、民主主義の番犬としての役割を果たすのは難しいと感じている」といった評価は、わが国マスコミの姿勢に対する痛烈な警鐘として重く受け止める必要があるのではないでしょうか。

財政公開性調査結果で見るわが国の地位

 最後に、2020年4月に国際NGO「International Budget Partnership=IBP」が公表した『Open Budget Survey(財政透明性調査)2019』について触れたいと思います。これは、世界110カ国における財政の透明性をランク付けしたものです。

 改めて述べるまでもなく国の財政は国民の税金によって運営されており、政府は国民の付託を受けて最適な運用を行う義務を負っています。比喩的に言い換えれば、国民は国家という組織体に対して税金という名の投資を行っている株主であり、財政文書は株主に審判を仰ぐ有価証券報告書に相当すると言えます。

 さて、財政情報については様々な面から考察したいと考えており、詳しくは次週のブログ(8月8日の予定)にまわすことにしますが、ここではOpen Budget Survey2019で公表されたランキング結果のみを紹介したいと思います。

 上のグラフのように、わが国の財政の透明性は110カ国中28位で、何とか“Substantial”のランクに踏みとどまってはいるものの、赤枠で囲ったG7諸国の中では最下位です。この要因については、予算策定時における重要な文書が作成(公表)されていないことや、国民が国営について広く参加できる機会がないことなど、民主主義国家としてかなり深刻な問題が提起されています。


 以上、3種類の国際評価を見てきました。もちろん国の体制や文化・風土も異なることから、一概に比較や断定はできませんが、これら結果を見てわが国が公正な民主主義国家であると胸を張れるにはあまりに課題が山積しているように思われてなりません。

  昨今のコロナ感染拡大に歯止めがかからないなか、専門家から「国民と危機感が共有されて異なことが最大の危機である」といった意見が出されています。社会行動学では、「外部からの危機が高じると社会は自然と結束を強め危機に対抗しようとする」と教えられましたが、こうした定理が通用しない現実をどのように受け止めたらいいのでしょうか。
 少なくとも明確に言えることは、今の政治体制の延長では『幸福な社会の実現』への途は極めて困難であるように思えてならないのです。次回のブログでは、国際NGO IBPが提起した財政の透明化指標を足掛かりに、国民生活に直結する財政と富の分配のあり方について、提言も交えて考えたいと思います。


社会・政治問題ランキング
  1. スウェーデンの情報公開法は1766年の「出版自由法」にまで遡る
  2. 原文:Yoshihide Suga, Shinzo Abe’s former right-hand man and successor as prime minister since September 2020, has done nothing to improve the climate for press freedom. The world’s third biggest economic power, Japan respects the principles of media freedom and pluralism. But journalists find it hard to fully play their role as democracy’s watchdog because of the influence of tradition and business interests. Journalists have been complaining of a climate of mistrust toward them ever since the nationalist right swept to power in the 2012 general election. The system of “kisha clubs” (reporters’ clubs) continues to discriminate against freelancers and foreign reporters. On social networks, nationalist groups harass journalists who are critical of the government or cover “anti-patriotic” subjects such as the Fukushima Daiichi nuclear disaster or the US military presence in Okinawa. The government continues to refuse any debate about a law protecting “Specially-Designated Secrets,” under which whistleblowers, journalists and bloggers face up to ten years in prison if convicted of publishing information obtained “illegally”.
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