社会保障を中心にOECD主要6カ国と比較する

社会保障を中心にOECD主要6カ国と比較する

 国民皆保険制度、生活困窮者への手厚い保護など、わが国の社会保障制度は世界的にも充実した制度と言われています。一方で、高齢化の進展や生産年齢人口の減少など、社会保障財源が今後ますます高騰しており、財政へのインパクトが日々高まっていると懸念もなされています。

 そこで、今回はOECD主要6カ国が公表しているファクトデータに基づいて、社会保障に関連する様々な実態を客観的に比較したいと思います。対象とした6カ国は日本・アメリカ・イギリス・ドイツ・フランス・スウェーデンです。

税収構造

 まず、財務省『国際比較』に基づいて、2018年時点の国税と地方税を合算した税収の税目別構成比について考察します。

 このグラフから、わが国の税収構造は、個人所得税と消費税の割合が少ない反面、法人所得税の割合が大きいことが分かります。
 また、同資料によると国税と地方税の割合(直間比率)にかなりの相違もあるようです。

 上表ではスウェーデンが抜けていますが、スウェーデンの税収構造は下図のようにかなり複雑になっています。

 すなわち、地方税率は固定ですが、国税は年収が約22万クローネに満たない世帯は免除され、それ以上の所得世帯は年収に応じた税率が定められています。消費税の税率は25%ですが、6%1と12% 2 の軽減税率が適用されています。

 また、アメリカの直間比率はわが国以上に国税の割合が大きく、税収に占める個人所得税の割合も54.7%と極めて高い国ですが、所得水準に加え養育対象の子どもの数に応じた税額控除が行われています。

 アメリカの税額控除と類似した仕組みは、イギリスの就労税額控除3や、児童税額控除4などにも見ることができます。

 わが国も寄付金控除や住宅ローン控除、政党助成金控除などはありますが、他国のような生活環境に対応した控除項目はありません。資本主義社会における税制には、格差と不均衡を是正し平等な社会を構築するための調整弁のような役割が課せられています。わが国の税制では、こうした調整弁の役割はどれだけ果たされているのでしょうか?

 財務省の資料には、国民所得に占める公費(税金+社会保障費)の割合も掲載されています。

 44.3%というわが国の負担割合は、アメリカを除けばかなり低い水準にあるように見えますが、細かく見ると所得税と消費税の割合が少ないことが大きく影響していることが分かります。とりわけ欧州各国では、消費税率をおよそ20%から25%と高い税率が設定している国が多く、わが国と比べると倍以上の税率になっています。このように高い消費税率が設定できた背景には、福祉財源として国民に確実に還元されることが保障されているからです。つまり、“高負担・高福祉”の考え方がコンセンサスとして確立されていることが大きな要因になっており、わが国で見られるような消費税増税を巡る混乱はほぼ生じていないと言われています。

労働環境と産業構造

 OECDの主要統計に2017年の平均年収の比較があります。これをグラフにすると以下のようになります。

 ここでは、わが国の平均年収の低さが際立っているのが見て取れます。

 一方、総務省統計局による『世界の統計2021』をもとに実労働時間を集計すると、わが国の労働時間がとりわけ男性の労働時間が異常に長いことが示されています。

 ここから推察されることは、わが国の労働時間単価が他国に比べて異常に低いということで、それは男女別月平均賃金の比較グラフでも明らかです。

 こうした傾向は、購買力平価から換算した労働生産性の推移にも強く表れています。

 なぜこのような状況が生じたのか? 諸説あるようですが、わが国産業構造の大半が中小零細企業によって成り立っているという考え方が最も説得力があるようです。

 中小企業基盤整備機構が公開した統計資料によれば、わが国の企業のうちの99.3%は中小零細企業であると言われています。つまり、中小零細企業が全雇用者のうちの68.8%を雇用していることになります。
 もちろん、中小零細企業の中には高収益を上げ一定以上の賃金条件で従業員を雇用している企業も少なくありません。しかしながら、大手企業などからの下請け業務によって経営が成り立っている企業も多いことは事実です。

 一般的に、下請け企業は元受け企業から一定のマージンを差し引いた額で仕事を請け負うことになるため、その分の収益も少なくなります。また、元受け企業は実際の生産業務を下請け企業に依存する割合が高いため、その分独自に生み出す付加価値も少なくなります。ビジネスフローが下流に伸びるほど、生み出す付加価値が少なくなる結果となり、元受け企業にとっては独自の技術力やノウハウを蓄積する機会が失われることにもつながります。
 下請け依存体質は、下請け企業だけでなく元受け企業にも多大なダメージをもたらします。独自技術や製品開発力が喪失するだけでなく、クリエーティビティや従業員の労働意欲まで低下させてしまう危険もあります。下請け依存体質は、わが国経済社会における極めて深刻な課題であると思います。

社会保障給付

 さて、以上の考察を踏まえて本題の社会保障給付について考えたいと思います。 まず、厚生労働省『社会保障制度等の国際比較について5』で示された数値に基づいて、GDPに占める社会保障給付全体の割合を見たいと思います。

 わが国の公費と事業主負担の割合が欧州諸国に比べて少なく、これが給付費全体の給付水準を押し下げていることが見て取れます。特に、被保険者本人負担が事業主負担を割合で上回っているのは、比較した6カ国のなかではわが国だけに見られる現象です。

 ちなみに、被保険者本人負担が顕著に少ないスウェーデンでは、国・地方自治体(県と市町村)・事業主が担う社会保障の役割分担が法律によって明確に決められており、事業主には納税以外に次のような保険料が課せられています。
 ・年金積立金:俸給の10.21%(従業員は給与の1.5%)
 ・遺族年金:俸給の1.17%
 ・疾病保険:俸給の4.35%
 ・両親保険:俸給の2.60%(育児休業時に両親に給付される保険)
 ・労災保険:俸給の0.30%
 ・労働市場保険:俸給の2.62%
 ・総合賃金保険:俸給の約10.15%(企業と中央労組間で合意された協約年金)

 なお、法人に属さない無年金者や最低額に満たない年金受給者には、最低補償年金(月額5,616クローネ(約8万円)相当)が国庫(国税)から支給されることになっています。

  社会保障給付の内訳を細かく見ると、国による考え方の違いを見ることができます。これは国立社会保障人口問題研究所『平成29年度社会保障費用統計』が公表した2015年時点での数値です。

 すなわち、医療保険を除くわが国の社会保障支出は、高齢者への支出にかなりの比重が置かれています。それに対し欧州諸国では、労働政策や住宅、家族保障など現役世代を対象にした支出にかなりの比重が割かれています。とりわけ、“積極的労働市場政策”への支出がフランスやスウェーデンなどで多いことも注目したいと思います。欧州の多くの国では、産業の新陳代謝を促すことが国際競争力を向上させるとの考えから、積極的雇用政策を経済対策のはしたとして取り組んでいます。積極的雇用政策の結果、縮小や倒産に追い込まれる企業は数多くありますが、この間の労働力需給調整や失業期間を短縮するための施策は、政府に義務付けられた重要な責任とされています。こうした施策のためにスウェーデンでは国家予算の9%を費やしており、この財源から失業手当の支給や職業訓練などのコスト、雇用主に対する失業者雇用補助金や所得控除などが行なわれています。このように、現役世代への社会保障政策の強化は、福祉という枠に留まらず、国の成長戦略の柱とされています。
 高齢化率が高いわが国で高齢者給付の割合が高くなることは必然なのかも知れませんが、今後のわが国の社会保障給付の課題として、現役世代への戦略的な給付拡充も検討していくべきではないでしょうか。

 社会保障全体でみると、わが国のGDPに占める社会保障給付の割合は他国に比べて決して高いものとは言えません。むしろ、先進6カ国の中ではアメリカと並んで低いレベルと言えます。
 その背景には、“会社や家族が社会保障の代替機能を果たすべき”といった、家族主義もしくは家族型経営という日本独特の考え方が根強く残っているように感じます。また、公共事業などを通して産業のすそ野を広げることで、社会保障が広くいきわたるはずだという考え方もあるように思えます。しかしながら、こうした昭和期の高度成長を支えてきたような考え方では、昨今の目まぐるしく変化する環境に追随することは困難だと思うのです。

 2018年10月に公表された財務省の財政制度等審議会財政制度分科会資料では、歳出に占める社会保障費も割合が33.7%にのぼり、これは所得税と法人税を足した歳入割合(32.0%)を上回っているとされ、膨らみ続ける社会保障財源の圧縮に向けた検討の必要性が声高に言われています。

 しかしながら、上のグラフに示されている歳入と歳出内訳をみる限りでは、社会保障に関わる保険部分と税収部分の境目が極めてあいまいな印象を受けてしまうのです。先に示したスウェーデンの事例のように、混然一体となっている税と保険の区分を明確に分離した仕組みの再構築も、今後に向けた重要な検討課題ではないでしょうか。

 かつて『社会保障と税の一体改革』が声高に言われた時代がありました。負担と給付の関係の適正化を図ることが改革の大きな目的でした。社会のセーフティネットという極めて重要な役割を担う社会保障制度の改革には、社会保障制度の中身をいじくるだけで完結できるものでは決してありません。以前、『持続可能な年金制度を考える』で、公的年金の財政検証で答申された“所得代替率“について触れましたが、”神風“でも吹いたかのようにわが国経済が奇跡的な高度成長軌道に乗らない限り、確実に数字は悪化の一途をたどっていくでしょう。生産年齢人口が年々減少する今日では、もはや望むべくもないことです。

 社会保障制度は国家の経済政策の要諦でもあることから、税制はもちろんのこと、経済・産業構造そのものも含めた巨視的な視点からのグランドデザインを作り上げる必要があるのではないでしょうか。

 これまで主要6カ国の数値上の比較を通じてわが国の社会保障を中心に見てきましたが、これらの数値の背景には、それぞれの国の経済政策や国家像というものが色濃く反映しているように感じます。


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