将来の組織・労働について考える

将来の組織・労働について考える

コロナ禍で働き方が変わったか?

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、労働環境の見直しを迫られた企業は多いと思います。とりわけ、昨年5月に専門家会議が<テレワークやローテーション勤務><会議はオンラインで>などを盛り込んだ働き方の新しいスタイルを提唱したのを機に、移動の伴わない在宅勤務が見直され、テレワークを導入する企業が一気に増加しました。しかしながら、一回目の緊急事態宣言以降は下のグラフのような減衰傾向を示しています。

 一般に、テレワークは移動に要する時間やそれに伴う通勤定期代などの交通費の節約や、オフィススペースの削減など経営に直接結びつくメリットが大きいはずですが、いったんは実施したものの取りやめた会社が多かった原因はしっかり分析しておく必要があると思います。
 国土交通省が『令和2年度テレワーク人口実態調査1』を公表していますが、ここで雇用型テレワーカー5,963名を対象にテレワークを実施し良かった点・悪かった点について、以下のような回答が寄せられました。

 「良かった点」として挙げられた回答は、まさにテレワークの利点と言えるでしょうが、「悪かった点」として挙げられた課題がテレワークやリモート会議が減衰傾向にある要因と考えられます。とりわけ、「仕事の支障が生じる」「勤務状況が厳しくなる」「疎外感・孤独感・不安感を感じる」などの回答は、今後のテレワーク普及にとって大きな阻害要因になっていると考えられます。

 テレワークを導入する際に真っ先に労使双方で問題となるのが、どのような勤怠管理を行うべきかだと思います。言い換えれば、個人の裁量に委ねる部分の大きいテレワーク(≒リモートワーク)は、従来のような出退勤時間による管理方法は取りづらいということです。無理やり従来の出退勤管理をテレワークに適応すれば、会社のサーバにログイン/ログアウトした時間を把握するだけでなく、仕事をこなしている証拠となるアクセス状況のログデータまで収集・管理する必要まで生じます。これでは従業員をパソコンに縛り付ける結果となり、疎外感や孤立感といった負の感情ばかりが醸成されてしまうのではないでしょうか。
 すなわち、テレワークを導入するには、従業員の労務管理のあり方を、労働生産性の観点から見直していく必要があるのです。テレワークを導入することで働き方と勤怠管理におけるバリエーションが増えると前向きに考え、ワークライフバランスの適正化や裁量労働制への移行など働き方に多様なバリエーションを持たせることで、より生産性の高い人材活用につながるのではないでしょうか。

 テレワークやリモート教育、オンライン診療などを総称して『スクリーン・ニューディール』と呼ばれていますが、今後同様のネットを介した非接触型テクノロジーが普及することになると考えられます。今回の新型コロナ感染拡大による外出自粛を引き金にテレワークが注目されましたが、これを感染抑止のための一過性の対策として終わらせるべきではありません。テレワークの導入には様々な課題もありますが、課題を一つ一つ解決していく努力が必要ではないでしょうか。なぜなら、次項以降で述べる今後の労働のあり方への極めて重要な布石と考えるからです。

長寿化に伴う社会・労働環境の変化

 医療技術の発展や衛生環境の整備などもあって、今日のわが国はかつてない長寿化社会を迎えています。下のグラフは1950年から2060年までの平均寿命の推移を実績と予測に基づいてグラフにしたものです。

 今日の社会保障制度などが形作られた1960年前後の平均寿命は、男性がおよそ65歳、女性が70歳でした。サザエさんの波平さんの年齢は50歳そこそこと聞いて驚かれる方も多いほど、ここ半世紀で平均寿命は大きく伸びています。つまり、今日の社会保障制度はこの当時の平均寿命をもとに作られています。
 では、生産年齢以降の人生時間はどのようになっていたのでしょうか。それを模式図で表現してみます。

 当時の定年は55歳でしたが、84,400時間の就労時間に対して、老後の時間は57,600時間とおよそ1対0.7の割合でした。では、人生100年時代ではどのようになるでしょうか。

定年は65歳まで延長されたとして、それでも204,400時間という膨大な老後の時間が残されるのです。就労時間の2.3倍もの長い老後時間が残されるのです。これでは、現行の老齢年金制度などのセーフティネットが機能するはずはありません。
 下のグラフは、65歳を境にした生活保護受給者数と保護率を示したもの2ですが、生活保護世帯に65歳以上の世帯が占める割合の高さが実感できると思います。

 職を失い生活に困窮する人が自立できるまでの一定期間を支援する制度である生活保護制度の趣旨から見ると、極めて異常な状況と言えます。下の円グラフは厚生労働省が平成30年度に行った被保護者調査3の結果ですが、死亡が生活保護の停止理由の大半を占めています。ちなみに、高齢者世帯のみで見れば死亡による生活保護の停止が6割近くを占めているようです。

 一方、少子高齢化に加え人口減少が加速する中で、生産年齢人口の占める割合は年々減少しています。国立社会保障人口問題研究所の人口推計4によれば、2045年のわが国の人口は1億640万人で、うち生産年齢人口は52%強に減少すると推計しています。

注:このグラフでは生産年齢人口を15歳から65歳までの40年間としています

 こうした25年足らずの近未来において現実化する社会環境を踏まえれば、今何をなすべきかを考え実行していくことはまさに喫緊の課題ではないでしょうか。

 AIやロボットなどのデジタル技術が進化し、ベーシックインカムも充実し働かずとも生活することのできる不労社会の到来を予想する向きもありますが、78億人ともいわれる地球規模で考えれば、全人類が格差なく同様の生活を送れるには25年という年数はあまりに短いと思うのです(グローバル化に逆行して一国主義を貫けば違うかもしれませんが)。
 むしろ、今考えるべきことは、定年後の長い老後生活をいかにすれば充実した生活を送れるかであり、裏返して言えば、膨張の一途をたどる高齢者人口をいかにすれば社会を担う一員として活用していけるかということではないでしょうか。

発想の転換が迫られる組織観・労働観

 私たちは、知らず知らずのうちに社会に対するある価値観が植え付けられてきたのではないだろうかと感じています。それは、<良い学校を出て、良い会社に入社できれば一生は安泰>といった『人生成功のパターン』です。しかし、それは会社で定年を迎えるまでの話で、その後に続く長い老後時間までの保証まではなされてはいないのです。先に述べたように、人生100年時代には会社で働く時間の2.3倍もの時間が残されます。この長大な時間の過ごし方は、個々人に委ねられているのです。もちろん、良い会社に入り高い地位まで昇りつめれば、そこそこの給料や退職金は期待できるでしょう。たとえ金銭的に不自由しない老後は迎えられても、無為に過ごせば老いが進むばかりです。さらに、次の世代では満足な退職金や年金が得られる保証もありません。下手をすると、老後破産に陥り生活保護のお世話にならないとも限りません。維持するのに汲々としている今日の社会保障制度の実情を考えれば、こうしたリスクは世代を追うごとに高まると考えられます。このように考えると、<良い学校を出て、良い会社に入社できれば一生は安泰>とう人生成功のパターンはもはや過去のものと考えた方がよいのではないでしょうか。
 また、<毎日決まった時間に出勤し、規定時間を職場で過ごす>といった勤務形態も次第に過去のものになりつつあるように感じています。さきに、テレワークに対し「仕事の支障が生じる」「勤務状況が厳しくなる」「疎外感・孤独感・不安感を感じる」などのネガティブな感想が多いと紹介しましたが、こうした感想の背景には<職場で過ごしてこその仕事>といった労働観が根強く残っているようにも感じます。

 そもそも仕事とは一定の成果を得る(≒生産性を上げる)ことが目的であり、職場とはそれを執行するための空間としての手段であるべきです。つまり、『就労時間=組織で働く時間』といった勤怠管理だけでは生産性を図る指標とするには無理があるのです。

 ここで、労働と組織というものについて少々根本に立ち返って考えてみたいと思います。

 20世紀初頭の代表的な経営学者で、米国のベル電話システム傘下のニュージャージー・ベル社を経営する実務家でもあるチェスター・バーナードは、彼の主著『経営者の役割[1]』のなかで「組織は共通の目的を持った協働の意志によって成り立つ」と定義しています。また、「組織を維持するには共通目的感の共有、協働意欲(貢献意欲)の保持、コミュニケーション(伝達)の3要素に加え、組織均衡の維持が欠かせない」とも述べています。組織均衡とは「組織に参加するメンバーにとって組織参加への誘因が自己の貢献よりも大きい場合は個人が組織への参加を継続し、逆に貢献のほうが大きくなった場合は、メンバーは組織に不満を感じて離脱していくという意味です。つまり、組織均衡を維持する上では組織の有効性(有益性)と能率が重要であると主張しています。
 バーナードの時代から100年を経て、組織は大きく発展しました。その過程のなかで、次第に「組織を維持発展させること(Going Concern)」が目的化されつつあるように感じます。

 もちろん、株主や債権者さらには顧客や従業員に対する社会的責任を果たす上でGoing Concern(事業継続性の確保)が経営者にとっての重要な責務であることを否定するつもりはありません。ただ、事業の継続を唯一究極の目的と位置付けてしまうと、様々な歪みを社会にもたらすことにもなる問うことは肝に銘ずべきと思うのです。その典型的な事例が『悪しき利権構造』です。
 社会に寄与することで利を得る正当な利権構造(バーナードの「組織の有効性・有用性」)は、資本主義を発展させる重要な要因として重要な役割を果たしますが、有効性・有用性を失った組織が、組織を維持することを目的に利権を主張すれば『悪しき利権構造』に陥ってしまいます。こうした悪しき利権構造がはびこることで、社会の発展(ダイナニズム)を阻害する要因となることもあります。過去を振り返れば、技術の進展や社会環境の変化によって社会的使命を終えた組織は数多く存在します。第四次産業革命と言われる変化が加速しつつある今日では、とりわけ悪しき利権構造は社会の発展上大きな足かせにもなります。社会的役割を終えた組織には変化が求められ、変化に追いつけない組織は淘汰されることが社会の健全性を保つ上で極めて重要ではないでしょうか。

 バーナードが説く組織論では、組織とは目的を達成するための集合体であり、組織を構成するメンバーは同じ目的のもとに集まった人々の同士的結合と見ることができます。つまり、組織は目的を達成する上での手段であるという考え方が組織論の原点にあるということを改めて考える必要があるようです。こうした観点から改めて『組織に求められることは何か?』と考えると、「事業中心型組織(革新性が重視されるObject Orientedな組織)」であり、「組織重視型思考」ではなく「事業重視型思考」を常に保持することが欠かせない要件であるといえるのではないでしょうか。

今後の働き方に向けて

 さて、少々理屈っぽい記述になりましたが、組織観・労働観といった価値観を展開し、組織に従属するだけの労働形態を根本的に考え直さないと、今後の人口減少と高齢化が加速する社会を乗り切ることはできないと思うのです。

 すでに、組織に従属するだけの労働形態から脱皮しようとする変化は生じています。ワークライフバランスや育児休業、さらに一部企業で兼業が公認されるなどは、小さな変化かもしれませんがその一つと言えるでしょう。いずれにしても、今後の日本の経済社会を持続させるには、就労者と組織の双方がこれまでの考え方から脱却し、新しい視点に基づく組織観・労働観を再構築していくことが求められるのではないでしょうか。

 こうした将来的な視点に立てば、雇用形態もかなり変化すると思います。少なくとも正規・非正規といった雇用形態には意味がなくなり、事業目的に見合った人材を活用する目的追求型(プロジェクト型)組織が一般的になると思います。労働者も、自らの能力を磨くことで様々な事業に参画できるフリーランサー型人材が主流になると思うのです。

 高齢化と人口減少が加速する今後の社会では、このようなダイナミックな発想の転換が重要だと思いますし、年齢や性別に関係なく各々の能力を最大限に発揮できる労働環境の構築こそ真のイノベーションを加速することができるのではないでしょうか。


社会・経済ランキング
  1. 国土交通省「令和2年度テレワーク人口実態調査」2021年3月
  2. 厚生労働省の平成29年版厚生労働白書より
  3. 厚生労働省『平成30年度被保護者調査』より
  4. 国立社会保障人口問題研究所『日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)』より
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